asa insight

2026-10-18 12:36:00

asa health information 10月⑥ 情報に触れるとき、私たちは何を信じているのか? ―「洗脳」と「認知バイアス」から考える、真実を観る力 ―

私たちは毎日、テレビや新聞、インターネット、SNSなどから、たくさんの情報を受け取っています。

その情報をもとに、何が正しいのか、何を信じるのか、そして、どう行動するのかを判断しています。

けれども、私たちは目にした情報を、そのまま客観的に受け止めているのでしょうか。

同じ出来事でも、伝え方によって受ける印象は変わります。何度も聞いた話を信じやすくなったり、多くの人が支持している意見を正しいと思ったりすることもあります。

こうした心の働きを理解することは、情報に振り回されず、自分で考え、判断するための大切な一歩です。

今回は、新型コロナワクチンをめぐる情報発信などを例に、「情報操作」と「洗脳」、そして私たち自身の認識の働きについて考えてみます。

 

1.「情報操作」と「洗脳」は、どう違うのか?

情報操作とは、情報の選び方や伝え方によって、受け手の印象や判断に影響を与えることです。

例えば、ある商品の長所だけを繰り返し伝え、短所や注意点をほとんど説明しなければ、受け手はその商品を実際以上に良いものだと感じるかもしれません。

一方、洗脳という言葉は、一般に、情報や人間関係、心理的な圧力などを利用して、人の信念や行動を強く変えようとすることを指します。ただし、どこからを洗脳と呼ぶかについて、誰もが認める一つの明確な基準があるわけではありません。

また、情報によって人の行動が変わったからといって、すべてが洗脳というわけでもありません。正確な情報を伝え、本人が理解したうえで判断できるようにすることもあります。

大切なのは、何を伝えているかだけでなく、何が伝えられていないのか、どのような方法で判断を促しているのかにも目を向けることです。

 

2.新型コロナワクチンをめぐる情報から考える

新型コロナウイルスの感染拡大時には、政府や医療機関、報道機関などが、感染症のリスクやワクチンの効果、安全性に関する情報を発信しました。

一方で、接種をめぐっては、効果や副反応、個人の選択、社会的な責任など、さまざまな意見や不安も生まれました。

このような状況では、情報の内容だけでなく、その伝え方や受け止め方にも注意が必要です。

例えば、次のようなことが考えられます。

 

① 善悪の二択にしてしまう

「接種する人は社会に協力する人」、「接種しない人は無責任な人」というように、人の選択を善悪で分けてしまうと、個々の事情や考えを理解する余地が狭くなります。

反対に、接種した人を一律に「情報にだまされた人」と決めつけることも、同じように相手を理解する機会を失わせます。

 

② 多くの人が選んでいることを、正しさの根拠にしてしまう

接種率や著名人の発言、専門家の見解は、判断の参考になる情報です。しかし、多くの人が選んでいることだけで、あらゆる人にとって最善の選択だと結論づけることはできません。

多数派であることと、科学的に正しいことは、必ずしも同じではないからです。

 

③ 恐怖や安心感によって、判断が左右される

感染や重症化への恐怖は、感染症対策を考えるうえで重要な感情です。また、ワクチンによってリスクを減らせるという期待も、行動を後押しします。

ただし、恐怖が強すぎれば冷静に考えにくくなり、安心感が強すぎれば、残るリスクを見落とすこともあります。

 

④ 都合のよい情報だけを見てしまう

ワクチンの効果を示す情報ばかりに注目すれば、限界や副反応に関する情報を十分に検討できないかもしれません。

反対に、健康被害を訴える事例ばかりを見ていれば、効果を示す研究や、感染症そのもののリスクを見落とす可能性もあります。

ワクチンの効果やリスクは、個別の事例だけで全体を判断せず、複数の信頼できる資料を照らし合わせることが大切です。

ここで考えたいのは、接種することと、接種しないことのどちらが正しいかを一律に決めることではありません。

どのような情報を根拠に判断したのか。

そして、

その判断を支えた情報には、偏りや見落としがなかったのか。

この問いは、ワクチンに限らず、政治、経済、健康、教育など、あらゆる情報に向き合うときに役立ちます。

 

“From Information to Wise Choices” 「情報から、賢明な選択へ。」

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<The meaning of Ayaka’s scene>

情報を集めることと、真実を見極めることは同じではありません。

私たちは、さまざまな情報に触れ、その根拠や確かさを確認しながら、物事を理解していきます。

しかし、判断を左右するのは、外から得られる情報だけではありません。

自分の経験や先入観、感情、思い込みも、情報の受け止め方に影響しています。

だからこそ、情報を確かめると同時に、それを受け取っている自分自身の認識にも目を向けることが大切です。

 

情報収集(Gather) → 情報の確認(Verify) → 自分の認識を観る(Reflect)

→ 多角的な判断(Judge) → 選択と振り返り(Choose)

 

「情報収集 · 確認 · 自己認識 · 判断 · 選択」 の流れ

STEP 1

情報を集める

複数の情報や異なる意見に触れる

 ⬇

STEP 2

情報を確かめる

発信元・根拠・事実と解釈を確認する

 ⬇

STEP 3

自分の認識を観る

感情・思い込み・先入観に気づく

 ⬇

STEP 4

多角的に判断する

複数の視点と、選択による影響を考える

 ⬇

STEP 5

選択し、振り返る

判断に基づいて行動し、必要に応じて見直す

 

この流れは、一度決めたら終わりではありません。選択した結果を振り返り、新しい情報が得られれば、もう一度情報を確かめ、判断し直すこともできます。

このプロセスを繰り返すことで、私たちは思い込みに気づき、より広い視野から物事を捉え、納得できる選択へと近づいていくことができます。

 

3.なぜ、私たちは情報に影響されるのか?

情報の受け止め方には、脳の働きと心理的な仕組みが関係しています。

脳は、入ってきた情報をすべて同じように処理しているわけではありません。過去の経験、記憶、期待、感情、身体の状態などを手がかりに、目の前の出来事を理解しようとします。

この働きは、膨大な情報を効率よく処理するために必要です。しかし、その一方で、判断に偏りが生じることもあります。

例えば、次のような心理的な働きがあります。

 

● 繰り返しによる影響

同じ情報を何度も目にすると、内容に親しみを感じ、真実らしく思えることがあります。ただし、何度も聞いたからといって、その情報が正しいとは限りません。

 

● 同調圧力

周囲の人が同じ意見を持っていると、自分も同じように考えたくなることがあります。集団に受け入れられたいという気持ちは、人間にとって自然なものです。しかし、孤立を恐れるあまり、疑問を口にできなくなることもあります。

 

● 感情による判断の変化

恐怖や怒り、不安が強いときには、危険を感じさせる情報に注意が向きやすくなります。反対に、安心したい気持ちが強いときには、自分を安心させてくれる情報を選びやすくなることがあります。

 

● 脳の学習と習慣

繰り返し経験したことや、その後に得られた結果は、次の判断や行動に影響します。脳の可塑性は、経験に応じて神経回路の働きが変化する性質です。

ただし、情報を繰り返し見れば必ず特定の信念が脳に固定される、という単純な仕組みではありません。人の考え方は、経験や環境、他者との対話、新しい情報など、さまざまな要因によって変化します。

つまり、私たちは情報を受け取るだけの存在ではありません。

自分の内側にある経験や感情、期待などを通して、情報に意味を与えているのです。

 

4.SNS時代に気をつけたい「情報の偏り」

現在は、検索エンジンやSNSを通じて、膨大な情報に触れられるようになりました。

便利になった一方で、注意したいのが、似た意見や関心を持つ情報ばかりに触れやすくなることです。

閲覧履歴や反応などをもとに、利用者が関心を持ちそうな情報が優先的に表示される場合があります。こうした仕組みなどによって、特定の見方に偏った情報環境が生まれることがあります。

このような状態は、しばしば「フィルターバブル」と呼ばれます。

例えば、ある意見に賛成する投稿を何度も見ていると、その意見が社会全体の共通認識であるかのように感じるかもしれません。

さらに、刺激の強い言葉や怒りを誘う投稿は、注目を集めやすいことがあります。その結果、落ち着いた説明よりも、極端な主張のほうが目立つ場合もあります。

しかし、SNSで多く見かける意見が、社会全体の意見を正確に反映しているとは限りません。

また、フィルターバブルがどの程度生じるかは、利用するサービスや人によって異なります。アルゴリズムだけでなく、自分自身がどの情報を選び、誰の発信を追いかけているかも関係します。

情報の選択をすべて外部の仕組みのせいにするのではなく、自分の情報環境を見直すことも大切です。

 

5.情報に振り回されないための五つの習慣

では、私たちは情報に触れるとき、何を意識すればよいのでしょうか。

大切なのは、すべてを疑うことでも、何も信じないことでもありません。情報を確かめ、自分の考え方も見つめ直すことです。

 

① 事実と解釈を分ける

「何が起きたのか」という事実と、「それは何を意味するのか」という解釈を分けて考えます。

例えば、「ある人がワクチン接種後に体調を崩した」という情報と、「その体調不良はワクチンが原因だった」という判断は、同じではありません。原因を確かめるには、時間的な前後関係だけでなく、医学的な評価やほかの可能性も検討する必要があります。

 

② 発信元と根拠を確かめる

誰が、いつ、どのような根拠で発信した情報なのかを確認します。

公的機関や専門家の発信も、肩書きだけで無条件に受け入れるのではなく、根拠や説明の内容を確認します。一方、個人の体験談も、全体の傾向を判断する資料とは役割が異なることを理解しておきたいものです。

 

③ 反対の情報にも目を向ける

自分の考えに合う情報だけでなく、異なる見解にも触れてみます。

ただし、賛成意見と反対意見を機械的に同じ価値で扱えばよいわけではありません。双方の根拠の確かさや、証拠の量、説明の妥当性を比較することが大切です。

 

④ 感情が強く動いたときは、すぐに結論を出さない

恐怖や怒り、強い安心感を覚えたときには、いったん立ち止まってみましょう。

「私は今、何に反応しているのだろう」
「この情報のどの部分に心を動かされたのだろう」

そう問いかけるだけでも、感情と判断を少し切り分けやすくなります。

 

⑤ 新しい根拠があれば、考えを見直す

一度信じたことを変えるのは、簡単ではありません。

しかし、考えを見直すことは、過去の自分を否定することではありません。そのときに得られた情報をもとに判断し、新しい情報が加わったら、もう一度考える。それは、認識を深めていくための自然な過程です。

 

6.「真実を観る力」は、自分の認識を観察することから

情報操作について考えるとき、私たちはつい、誰かが情報を操作しているのではないか、誰が人々を誘導しているのか、という外側の問題に目を向けがちです。

もちろん、情報の透明性や説明責任を確かめることは重要です。

しかし、それと同時に、自分自身の内側にも目を向けてみる必要があります。

なぜ、その情報を信じたのでしょうか。

自分の期待に合っていたからでしょうか。

周囲の人が支持していたからでしょうか。

不安を解消してくれたからでしょうか。

それとも、十分な根拠を確認したうえで納得したからでしょうか。

こうした問いは、誰かを疑うためだけのものではありません。

自分の判断にも偏りが生じる可能性を認め、より確かな理解に近づくためのものです。

「真実を観る眼力」とは、最初から何でも見抜ける特別な能力ではありません。

事実と解釈を分け、異なる情報を比較し、自分の感情や思い込みにも気づきながら、必要に応じて考えを修正していく力です。

情報があふれる時代だからこそ、外側の情報を確かめるだけでなく、その情報を受け取っている自分自身の認識を観察することが大切なのではないでしょうか。

次回の「真実を観る眼力」では、こうした認識の偏りを、心理学で研究されている「認知バイアス」という視点から、さらに具体的に考えていきます。

私たちは、なぜ自分の考えを支持する情報に目が向きやすいのでしょうか。そして、どうすれば、見たいものだけを見るのではなく、物事をより広い視野から捉えられるようになるのでしょうか。

その問いから、認識の精度を高める方法を探っていきます。