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asa information 10月号④ 秋の眠気から考える、睡眠と心身のつながり ― 夏の疲れを癒やし、自然のリズムに調和して暮らす ―
秋になると、涼しい夜に心地よく眠れるようになる一方で、昼食後や午後に眠気を感じたり、身体が重く感じられたりすることはありませんか。
夏の暑さの中では、寝苦しい夜が続き、知らず知らずのうちに疲れが蓄積していることがあります。そして、秋になって気温が下がると、それまで気づかなかった疲労感が表面に現れることもあります。
東洋医学では、このような夏から秋への変化を、身体を支える「気」の消耗という視点から捉えることがあります。
また、インドの伝統医学アーユルヴェーダでは、季節の変化と身体の働きを、ヴァータやカパという性質から考えます。
現代医学でも、睡眠は単に身体を休ませる時間ではなく、体内時計、ホルモン、脳の働き、代謝、感情などと深く関係していることが分かっています。
秋の眠気を手がかりに、季節と身体、そして心のつながりについて考えてみます。
1.東洋医学から見る、秋の眠気と「気虚」
東洋医学では、人間の身体を自然から切り離して考えず、季節の変化や生活環境と関係しながら働くものとして捉えます。
夏は、暑さによる発汗や体温調節、寝苦しさなどによって、身体に負担がかかりやすい季節です。
秋になって涼しくなると、眠りやすくなる一方、それまでの疲れが意識されるようになり、倦怠感や眠気が現れることがあります。
東洋医学では、このような状態を考える際に「気虚」という概念が用いられます。
「気虚」とは、どのような状態か
気虚とは、生命活動を支える「気」が不足していると捉える状態です。
東洋医学でいう「気」は、現代科学で測定できる特定のエネルギーを意味するものではありません。身体を動かし、体温を保ち、食べ物を消化し、日々の活動を支える働きをまとめて表した伝統医学上の概念です。
気虚の状態では、次のような傾向が見られるとされています。
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疲れやすく、身体が重く感じられる。
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食後に眠気や倦怠感が現れやすい。
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活動する意欲が湧きにくい。
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休息を取っても、疲れが残りやすい。
ただし、これらの症状があるからといって、必ず気虚であるとは限りません。睡眠不足や栄養状態、さまざまな身体の不調によっても、同じような症状は起こります。
大切なのは、眠気だけを切り離して考えるのではなく、睡眠、食欲、疲労感、活動量などを合わせて、自分の状態を観察することです。
秋は、少しペースを落とす季節
東邦大学医療センター大森病院の東洋医学科による「秋の養生」では、夏の暑さによる消耗が秋の倦怠感として現れることや、秋には無理をせず、活動のペースを落として過ごすことの大切さが紹介されています。
夏に頑張ってきたことを振り返り、心身を休めながら、これまでの生活を見直す。
秋は、ただ活動量を減らす季節というよりも、これまでの疲れを回復させ、次の季節に備える時期として捉えることができます。
(参考:梁晨千鶴著『東方栄養新書』東洋学術出版社 東邦大学医療センター大森病院・東洋医学科「秋の養生食」)
2.アーユルヴェーダから見る、ヴァータとカパ
アーユルヴェーダは、インドに伝わる伝統医学です。
人間の心身の働きを、ヴァータ、ピッタ、カパという三つのドーシャのバランスから捉え、季節や食事、生活習慣に合わせた養生を重視します。
秋の眠気を考える際には、特にヴァータとカパという二つの性質が参考になります。
ヴァータ 『動きと変化を表す性質』
ヴァータは、風と空間に対応し、身体や心の動き、神経活動、変化などと関連づけられます。
アーユルヴェーダでは、秋の冷たさや乾燥、気温の変動などによって、ヴァータが乱れやすくなると考えます。
ヴァータのバランスが崩れた状態では、落ち着かなさや不規則な生活リズム、眠りの浅さなどが問題になるとされています。
そのため、秋には規則正しい生活を心がけ、身体を冷やしすぎず、十分な休息を取ることが養生の基本になります。
カパ 『安定と重さを表す性質』
カパは、水と地に対応し、身体の安定や潤い、構造を維持する働きなどと関連づけられます。
アーユルヴェーダでは、眠気、身体の重さ、活動性の低下などを、カパの性質と結びつけて考えることがあります。
日中の眠気を考える際には、このカパの視点が参考になります。
ただし、秋はヴァータが乱れやすい季節とされる一方、眠気はカパと関連づけられるため、季節と症状を一つの原因で説明することはできません。
また、これらはアーユルヴェーダ独自の伝統的な考え方であり、現代医学における診断や、眠気の原因を確定する基準ではありません。
二つの伝統医学に共通すること
東洋医学の気虚と、アーユルヴェーダのヴァータやカパは、同じ概念ではありません。
それでも、身体の状態を季節や生活環境との関係から捉え、食事、活動、休息のバランスを整えようとする点には共通性があります。
眠気を単に怠けているからと考えるのではなく、今の身体に何が起きているのかを観察する。
そこに、伝統医学の養生から学べることがあります。
3.現代医学から見る、睡眠と体内時計
それでは、現代医学では、眠気や睡眠をどのように説明しているのでしょうか。
睡眠と覚醒のリズムには、主に二つの仕組みが関係しています。
一つは、約24時間の周期で身体の働きを調整する「体内時計」。
もう一つは、起きている時間が長くなるほど強まる「睡眠圧」です。
この二つが互いに働きながら、眠る時間と目覚める時間を調整しています。
松果体とメラトニン
脳の中央付近にある松果体は、「メラトニン」というホルモンを分泌します。
目から入った光の情報は、脳の視床下部にある体内時計の中枢などに伝わり、松果体でのメラトニン分泌を調節します。
一般に、夜になって暗くなるとメラトニンの分泌が増え、身体は眠りに向かう準備を始めます。朝に光を浴びると、メラトニンの分泌は抑えられ、目覚めに向かうリズムが整えられます。
つまり、私たちの睡眠は、意志の力だけで決まるものではありません。光と暗さという自然環境の変化を受け取りながら、身体の内側で調整されているのです。
ただし、メラトニンは単純に眠らせるだけのホルモンではなく、体内時計と外界の明暗周期を同調させる役割が重要です。

午後に眠くなるのはなぜ?
昼食後から午後にかけて眠くなることがあります。
この時間帯の眠気には、食事だけでなく、体内時計によって生じる覚醒度の変化や、睡眠不足、疲労などが関係します。
人間の身体には、夜の睡眠とは別に、午後にも眠気が強まりやすい時間帯があります。そのため、十分に眠っていても、昼食後に眠くなること自体は珍しいことではありません。
また、起きている間には、脳内で睡眠圧に関係するアデノシンという物質が蓄積していきます。睡眠を取ることで、その睡眠圧が軽減されます。
昼食後の眠気が気になる場合には、食事の量や内容、睡眠時間、日中の活動量などを合わせて見直すことが大切です。
午後のまどろみ
秋の眠気と日照時間
秋になると、夏より日照時間が短くなります。光は体内時計を調整する重要な手がかりであり、季節による明暗の変化が睡眠・覚醒のリズムに影響する可能性があります。
ただし、秋の眠気がすべて日照時間によって起こるわけではありません。
夏の暑さによる睡眠の質の低下や、生活リズムの変化、疲労の蓄積など、複数の要因が重なっていることも考えられます。
現代医学の視点では、季節だけを原因と決めつけず、自分の睡眠と生活の状態を具体的に観察することが重要です。
4.睡眠は、身体だけでなく心にも関係している
睡眠の役割は、疲れた身体を休ませることだけではありません。
睡眠中には、脳の働きや記憶の整理、感情に関わる処理なども進みます。十分な睡眠が取れないと、注意力や判断力が低下したり、感情の変化に対応しにくくなったりすることがあります。
反対に、強いストレスや気分の落ち込みが、眠りの質を低下させることもあります。
このように、身体の状態が心に影響し、心の状態が睡眠や身体の働きに影響する関係を、東洋思想では「身心相関」という視点から捉えてきました。
秋になると、夏の疲れが表面化するだけでなく、日照時間や生活環境の変化なども重なり、気分が沈みやすく感じられる人もいます。
東洋医学では、秋と「肺」、そして悲しみや憂いという感情を関連づけて考えます。これは伝統的な季節観であり、秋に抑うつ症状が必ず増えることを意味するものではありません。
現代医学でも、睡眠と感情の間には相互の関係があることが知られています。
だからこそ、疲れや眠気、気分の変化を、心だけの問題、あるいは身体だけの問題として切り離さず、心身全体の状態として捉えることが大切です。
なお、強い倦怠感や日中の眠気が長く続く場合、十分に眠っても回復しない場合、気分の落ち込みが続く場合には、季節の変化だけで説明せず、医療機関に相談することも必要です。
5.秋の睡眠を整える、日常の養生
秋の眠気を感じたとき、無理に気力で乗り切ろうとする必要はありません。
大切なのは、自然のリズムに目を向けながら、自分の生活を少しずつ整えていくことです。
① 睡眠時間を確保する
夜更かしを続けず、自分に必要な睡眠時間を確保します。成人では一般に7〜9時間程度が目安とされますが、必要な時間には個人差があります。朝の目覚めや日中の調子も参考にしましょう。
② 朝の光を浴びる
起床後に自然光を浴びることは、体内時計を整える助けになります。起床時刻をなるべく一定に保ち、日中も適度に外の光を感じるようにします。
③ 食事のリズムを整える
朝食や昼食を規則的に取り、食事の量や内容が午後の眠気に影響していないか観察します。温かい汁物や旬の食材を取り入れることも、秋の食卓を楽しむ方法の一つです。
④ 軽い運動と休息を組み合わせる
散歩や軽いストレッチなどで身体を動かし、疲れが強い日は無理をせず休みます。日中に眠気が強い場合は、可能であれば15〜20分程度の短い昼寝も選択肢になります。
⑤ 夜は光と刺激を減らす
就寝前は照明を少し落とし、スマートフォンなどの強い光や刺激を控えます。身体が自然に眠りへ向かいやすい環境を整えましょう。
こうした養生は、東洋医学やアーユルヴェーダの伝統的な知恵を日常に取り入れながら、現代医学で知られている睡眠の仕組みにも配慮したものです。
6.自然の変化を感じ、自分の身体を観察する
秋の眠気について考えてきましたが、ここで大切にしたいのは、眠気をなくすことだけではありません。
眠気は、体内時計や睡眠不足、食事、疲労など、さまざまな要因が関わって現れる身体の変化です。
眠くなったとき、すぐに「疲れているからだ」「秋だから仕方がない」と結論づけるのではなく、少し立ち止まって、自分の状態を観察してみる。
昨夜はよく眠れただろうか。
昼食の量は適切だっただろうか。
夏の疲れが残っていないだろうか。
最近、気持ちや生活のリズムに変化はなかっただろうか。
こうした問いを通して、身体の感覚と実際の生活の状態を照らし合わせていくことができます。
自然の変化を感じることと、自分の身体の変化を感じること。その両方を通して、自分の状態をより正確に理解していく。
これは、東洋医学やアーユルヴェーダの養生にも通じる姿勢であり、「真実を観る眼力」で大切にしている、正しい観察と認識にもつながります。
身体の感覚は、自分を理解するための大切な手がかりです。しかし、感覚だけで原因を決めつけず、知識や事実と照らし合わせながら観察することで、認識はより深まっていきます。
睡眠を大切にすることは、自分の身体を大切にすること。そして、自分の状態を正しく知ることは、よりよい選択をするための第一歩でもあります。
秋の夜の静けさを感じながら、日々の睡眠と心身の状態を見つめ直してみませんか。
