Health and self-therapy information
asa health information 8月号 ④ 汗をかいているのに、身体は冷えていない? ~暑さ・湿度・体温調節の仕組みを知り、夏の身体を守る~
先日、秋山縦走に向けたトレーニングとして、御在所岳から鎌ヶ岳へ歩いてきました。
早朝には小雨。
登山を始めたときから、空気はかなり湿っていました。
御在所岳へ向かう中道登山道では、湿度は約80%以上の蒸し暑さ。
気温そのものが極端に高いというわけではありません。
ところが、歩き始めると汗が止まらない。
衣類は汗で濡れていく。
汗をかいているのに、身体の熱が抜けていかない。
次第に息苦しさも感じるようになり、いつもの登山とは明らかに違う身体の重さがありました。
このとき改めて感じたのが、
「暑さは、気温だけで決まるものではない」
ということです。
そして、もう一つ重要なことがあります。
それは、
「汗をかいているから、身体は冷えている」とは限らない
ということです。
今回の体験をきっかけに、暑さ、湿度、発汗、体温調節について考えてみます。
第1章 汗をかくことと、身体が冷えることは同じではない
暑くなったとき、身体は体温を一定に保とうとします。
その中心的な仕組みの一つが、
発汗です。
運動をすると筋肉から熱が生まれ、体温が上昇します。
すると身体は皮膚への血流を増やし、さらに汗を出します。
そして汗が皮膚表面から蒸発するときに熱を奪う「気化熱」によって、身体が冷却されます。
ここが大切なポイントです。
汗をかくこと
と
汗が蒸発すること
は、同じではありません。
汗が皮膚から流れ落ちているだけでは、十分な冷却効果は得られません。
汗が蒸発して初めて、効率的な身体の冷却につながります。
環境省も、身体は汗や皮膚温度の上昇によって熱を外へ逃がし、体温を調節していると説明しています。(環境省 WBGT情報サイト)
第2章 湿度が高いと、なぜ汗が乾かないのか?
今回の登山で特に印象的だったのが、
湿度約80%
という環境でした。
湿度とは、簡単に言えば空気中にどれくらい水分が含まれているかを表すものです。
湿度が低ければ、皮膚表面の汗は空気中へ蒸発しやすくなります。
ところが湿度が高いと、空気中にはすでに多くの水分が存在します。
そのため、
汗が蒸発しにくくなる。
すると、
汗をかく
↓
汗が乾かない
↓
身体の熱が逃げにくい
↓
さらに汗をかく
↓
水分・塩分が失われる
という循環が起こります。
環境省も、特に湿度が高い日や風が弱い条件では、汗をかいても蒸発しにくく、十分な水分・塩分補給が重要になるとしています。(環境省 WBGT情報サイト)
今回の登山で、
「汗は出ているのに、身体が冷えない」
という感覚があったのは、まさにこの現象です。
第3章 「暑い」より怖いのは、「熱を逃がせない」こと
暑さを考えるとき、多くの場合、
「今日は何℃なのか?」
を気にします。
しかし、身体への負担を考えるなら、それだけでは十分ではありません。
重要なのが、
- 湿度
- 風
- 日射・輻射
- 気温
です。
環境省が熱中症リスクの評価に使用している「暑さ指数(WBGT)」も、単純な気温だけではなく、湿度や日射・輻射などを考慮しています。(環境省 WBGT情報サイト)
つまり、
「気温はそれほど高くないから大丈夫」
とは限りません。
例えば、
気温30℃・湿度40%
と、
気温30℃・湿度80%
では、身体が熱を逃がす条件が大きく違います。
さらに風が弱ければ、皮膚周辺の湿った空気が入れ替わりにくくなります。
その結果、汗の蒸発がさらに進みにくくなります。
だから夏の身体を守るためには、
気温を見るだけではなく、「熱を逃がしやすい環境なのか」を見ることが重要です。
第4章 体温調節は、身体の「自動冷却システム」
人間の身体は、かなり精密な体温調節機能を持っています。
身体の内部で熱が増えると、脳の体温調節機構が働きます。
皮膚への血流を増やす。
⬇
汗を出す。
⬇
そして汗を蒸発させる。
こうして身体の熱を外へ逃がします。
いわば、
人体に備わった自動冷却システム
です。
しかし、このシステムにも限界があります。
- 外気温が高い。
- 湿度が高い。
- 風がない。
- 激しく身体を動かす。
- 大量の汗をかく。
- 水分・塩分が不足する。
こうした条件が重なると、
「熱を作る速度」>「熱を逃がす速度」
となります。
すると身体の内部に熱が蓄積していきます。
環境省は、体温の上昇と体温調節機能のバランスが崩れ、身体に熱がたまった状態が熱中症につながると説明しています。
第5章 汗は「水」だけではない
大量に汗をかくと、身体から失われるのは水分だけではありません。
汗には、
ナトリウムなどの電解質
も含まれています。
そのため、大量に発汗した場合、
「とにかく水だけを大量に飲めばいい」
とは限りません。
日本スポーツ協会は、暑い環境での活動では水分とともに塩分を補給することを勧めています。運動前後の体重変化を確認し、運動による体重減少を2%以内に抑えることも一つの目安としています。(日本スポーツ協会)
ただし、ここでも重要なのは、
一律に「何mL飲めばいい」と考えないこと。
発汗量は、
- 体格
- 運動強度
- 気温
- 湿度
- 風
- 衣類
- 体調
などによって大きく変わります。
だからこそ、自分がどれくらい汗をかくタイプなのかを知っておくことも、暑さ対策になります。
第6章 「喉が渇いてから」では遅いこともある
夏になると、
「喉が渇いたら水を飲む」
という習慣になりがちです。
しかし、暑い環境では、身体から水分が失われ続けています。
厚生労働省も、喉の渇きを感じなくても、こまめに水分・塩分などを補給するよう呼びかけています。(厚生労働省)
特に、
-
屋外で長時間過ごす
-
庭仕事をする
-
買い物などで歩き続ける
-
自転車に乗る
-
入浴する
-
エアコンを使わない室内で過ごす
-
高湿度の場所で作業する
といった場面では注意が必要です。
熱中症は「激しいスポーツをする人だけの問題」ではありません。
厚生労働省も、屋外だけでなく、室内で何もしていないときにも熱中症が起こり得るとしています。(厚生労働省)
第7章 スポーツをしていなくても、身体は熱をつくっている
ここは意外と見落とされやすいところです。
身体は、運動していなくても熱をつくっています。
- 心臓が動く。
- 呼吸をする。
- 脳が働く。
- 消化する。
- 筋肉が活動する。
- 細胞が代謝する。
生命活動そのものが、熱を生み出しています。
そこに、
- 暑い外気。
- 高い湿度。
- 風のない室内。
- 厚着。
- 長時間の家事。
- 入浴。
- 睡眠不足。
- 体調不良。
などが重なると、身体が熱を逃がしにくい環境になります。
つまり、
「運動していないから、熱中症にはならない」
という考え方は正しくありません。
第8章 夏の「だるさ」は、単なる疲労とは限らない
夏になると、
「身体が重い」
「頭がぼんやりする」
「食欲がない」
「何となく疲れている」
という状態になることがあります。
もちろん、睡眠不足や栄養不足など、さまざまな原因が考えられます。
しかし、高温多湿の環境では、体温調節のために身体が働き続けています。
- 汗を出す。
- 皮膚血流を増やす。
- 心拍数を調整する。
- 水分・電解質を失う。
こうした変化が積み重なれば、身体への負担は大きくなります。
だから、
「夏だから仕方がない」
と片付ける前に、
「今日は身体が熱を逃がせる環境なのか?」
と考えてみることも大切です。
第9章 体温を下げるには、「汗を拭く」だけでは足りない
汗をかくと、タオルで汗を拭きます。
もちろん不快感を減らす意味では大切です。
しかし、体温調節という視点では、
汗を拭き取るだけでは冷却効果を高められない場合があります。
重要なのは、
「汗を蒸発させること」です。
- 風を利用する。
- 衣類を調整する。
- 涼しい場所へ移動する。
- 日陰に入る。
- 冷房を使う。
- 首、脇の下、足の付け根などを冷やす。
こうした方法によって身体から熱を逃がしやすくします。
厚生労働省も、熱中症が疑われる場合には、涼しい場所へ移動し、衣服をゆるめ、身体を冷やすことを勧めています。(厚生労働省)
第10章 「冷やす」という発想を持つ
暑い季節には、
「水分を入れる」
ことばかり考えがちです。
しかし、もう一つ必要なのが、
「熱を外へ出す」
という発想です。
- 水分補給
- 塩分補給
- 冷房
- 送風
- 日陰
- 冷たいタオル
- 衣類の調整
- 休憩
これらはすべて、
身体の熱収支を改善するための方法
と考えることができます。
日本スポーツ協会も、熱中症対策として水分補給だけではなく、身体冷却、活動量・強度の調整、活動時間の変更などを挙げています。(日本スポーツ協会)
第11章 「暑熱順化」という身体の適応
暑い季節になると、身体は少しずつ暑さに適応していきます。
これを、
暑熱順化
と呼びます。
暑さに慣れていない状態で突然強い暑熱環境に入ると、身体への負担が大きくなります。
そのため、暑い時期の運動や屋外活動では、最初から無理をせず、徐々に身体を暑さに慣らしていくことが重要です。
環境省も、「無理をせず徐々に身体を暑さに慣らす」ことを熱中症予防のポイントとして挙げています。(環境省 WBGT情報サイト)
これは登山だけの話ではありません。
夏に庭仕事を始める。
自転車で遠出する。
ウォーキングを始める。
旅行で長時間歩く。
こうした場合にも同じ考え方が役立ちます。
第12章 今回の御在所岳で考えたこと
今回、湿度約80%の中を歩いてみて、
「気温」だけでは身体の負荷を判断できない
ということを、あらためて実感しました。
雨上がり。
高湿度。
風の弱い登山道。
身体を動かすことによって生まれる熱。
そして大量の発汗。
条件が重なることで、
「汗をかいているのに、身体が冷えない」
という状態が起こりました。
これは、単なる登山中の不快感ではありません。
身体が、
「熱を逃がすのが難しくなっている」
というサインでもあります。
だからこそ、身体の感覚を無視しないことが大切です。
第13章 身体の声を「我慢」で消さない
登山では、
「あと少しだから」
「ここまで来たから」
「予定どおり歩きたい」
という気持ちが出てきます。
日常生活でも、
「仕事があるから」
「家事を終わらせなければ」
「これくらい大丈夫」
と無理をしてしまうことがあります。
しかし、身体の体温調節には限界があります。
めまい。
立ちくらみ。
頭痛。
吐き気。
強い倦怠感。
筋肉のけいれん。
いつもと違う状態。
こうした症状が現れたら、
「もう少し頑張る」より、「いったん止まる」
ことが重要です。
厚生労働省は、意識がおかしい、意識がない、自力で水が飲めない場合には、すぐに救急要請が必要としています。(厚生労働省)
熱中症では、判断力そのものが低下することもあります。
だから、
「まだ大丈夫」と判断できるうちに休む。
これが重要です。
第14章 夏の健康管理は「暑さ」ではなく「熱収支」を見る
夏の身体を考えるとき、
「今日は何℃?」
だけではなく、
「身体は熱を作っているのか?」
そして、
「その熱を外へ逃がせているのか?」
という視点を持つ。
これだけでも、暑さへの向き合い方が変わります。
熱をつくる要因
- 運動
- 労働
- 家事
- 高温環境
- 厚着
- 発熱などの体調変化
熱を逃がしにくくする要因
- 高湿度
- 無風
- 強い日射
- 高い気温
- 大量の発汗による脱水
- 不十分な休息
こうした条件が重なるほど、身体の熱収支は悪化します。
だから夏の健康管理とは、
「暑さに耐えること」ではなく、「身体が熱を逃がせる環境をつくること」
なのかもしれません。
第15章 夏を安全に過ごすための7つの習慣
最後に、日常生活で実践しやすいポイントを整理します。
① 暑さは気温だけで判断しない
気温だけではなく、湿度、風、日射などにも注意します。
可能なら環境省のWBGT(暑さ指数)を確認します。(環境省 WBGT情報サイト)
② 喉が渇く前から水分を意識する
特に暑い場所で長時間過ごす場合は、こまめに水分を補給します。(厚生労働省)
③ 大量に汗をかいたら塩分も考える
汗には水分だけでなく電解質も含まれます。
特に長時間の発汗では、水分だけに偏らないことが大切です。(日本スポーツ協会)
④ 汗をかいたら「蒸発できる環境」をつくる
風を利用する。
衣類を調整する。
涼しい場所へ移動する。
身体から熱を逃がすことを意識します。
⑤ 暑い日は活動量を下げる
「いつもと同じ量をこなす」ことにこだわらない。
暑さそのものが身体への負荷になります。
⑥ 室内でも油断しない
熱中症は屋外だけの問題ではありません。
室温・湿度を確認し、必要なら冷房や送風を利用します。(厚生労働省)
⑦ 身体の変化を見逃さない
「少しおかしい」
「いつもより苦しい」
「頭が重い」
「力が入らない」
そんな小さな変化の段階で休む。
それが大きなリスクを避けることにつながります。
おわりに
「汗」は、身体からのメッセージ
御在所岳で汗だくになりながら歩いた今回の山行。
しかし、身体の仕組みを振り返ってみると、そこには重要なメッセージがありました。
汗が出ている。
呼吸が苦しくなる。
衣類が濡れる。
それでも身体の熱が抜けない。
これは単なる「暑さ」ではありません。
身体が、
「熱を逃がすのが難しくなっている」
というサインです。
人間の身体には、体温を一定に保つための素晴らしい仕組みがあります。
汗を出す。
皮膚への血流を増やす。
熱を外へ逃がす。
水分と電解質を調整する。
身体は、環境の変化に合わせながら絶えずバランスを取っています。
しかし、その能力にも限界があります。
だからこそ、
暑さに強くなることより、暑さを正しく読むこと。
我慢することより、身体が熱を逃がせる環境をつくること。
そして、
身体から発せられる小さなサインを見逃さないこと。
それが、夏を安全に過ごすための基本になります。
今回の御在所岳で体験した「湿度80%の中で、汗が止まらない」という出来事では、
「身体は、環境をどう感じ、どう適応しているのか」
を知るための、貴重な体験にもなりました。
山は、身体を鍛える場所であると同時に、
身体の声を学ぶ場所でもある。
そんなことを考えさせられた一日でした。
