Health and self-therapy information

2026-08-14 19:20:00

asa health information 8月号 ②【前編】 肉体は老いるが、意識まで老いる必要はない ~「老化は一直線ではない」Nature Agingの最新研究から考える、肉体と意識の関係

 私たちは、年齢を重ねると、

「少しずつ身体が衰えていく」

と考えがちです。

30歳より40歳。

40歳より50歳。

50歳より60歳。

まるで「老化」が、時間とともに一定の速度で進んでいくように感じます。

 

ところが、2024年8月14日に科学誌『Nature Aging』に掲載された研究は、このイメージに大きな修正を加えました。

論文のタイトルは、

「Nonlinear dynamics of multi-omics profiles during human aging」

です。

日本語にすると、

「人間の加齢におけるマルチオミクス・プロファイルの非線形ダイナミクス」

となります。

少し難しいタイトルですが、簡単に言えば、

「人間の老化は、毎年同じように少しずつ進む単純な現象ではない」

ということを、身体の分子レベルから調べた研究です。

 

そして、そこから見えてきたのは、

「人間の老化は、一定の速度で進む単純な変化ではない」

ということでした。

むしろ、

ある時期には比較的穏やかに変化し、ある時期になると、身体の中で多くの変化が一気に重なって起こる。

そんな「波」のような老化だったのです。

ここから、肉体と意識についても考えてみたいと思います。

 

1.まず「老化=一直線」という考え方を見直してみる

老化をグラフにすると、私たちは何となく、

「年齢が上がるほど、身体の機能が少しずつ低下する」

という右肩下がりの直線をイメージします。

しかし、生命はそんなに単純ではありません。

 

人間の身体には、

  • 遺伝子

  • タンパク質

  • 代謝

  • 脂質

  • 免疫

  • ホルモン

  • 腸内細菌

  • 皮膚の微生物

  • 口腔内の微生物

  • 鼻腔内の微生物

など、無数のシステムが関係しています。

それらが互いに影響しながら、絶えず変化しています。

 

そこで研究者たちは、

「身体全体では、年齢とともにどのような変化が起きているのか?」

を調べました。

 

2.「マルチオミクス」とは何か?

ここで登場するのが、

マルチオミクス

という言葉です。

「オミクス」とは、生命を構成するさまざまな情報を、広範囲に調べる研究方法です。

 

たとえば、

  • 遺伝子の働き

  • タンパク質

  • 代謝物

  • 脂質

  • 免疫に関係する物質

  • 腸内細菌

  • 皮膚や口腔などの微生物

などを調べます。

 

つまり、

身体の一部分だけを見るのではなく、生命全体を多角的に見る方法です。

この研究では、身体のさまざまな場所から大量のデータを集め、

「身体全体では、年齢とともに何が起こっているのか?」

を見ようとしたのです。

 

研究対象となったのは25~75歳の108人。

参加者を数年間にわたって追跡し、血液、便、皮膚、口腔、鼻腔などからサンプルを採取しました。

中央値で1.7年間、最長では6.8年間追跡されています。

そして、実に5,405個の生物学的サンプルを分析しました。

研究では、10種類のオミクス・データから、13万を超える生物学的特徴を調べています。 (Nature)

つまり、「人間の老化を、身体の内部から大規模に観察した研究」

と考えると分かりやすいでしょう。

 

3.驚くべきことに、老化の多くは「直線的」ではなかった

研究結果で、特に重要なのがここです。

研究者たちは、年齢とともに一定方向へ変化する「直線的な変化」を調べました。

 

従来、老化を単純化すると、

「年齢が1歳増える」

   ↓

「身体の機能が少し低下する」

   ↓

「さらに1歳増える」

   ↓

「また少し低下する」

という、ほぼ直線的なイメージになります。

 

ところが研究では、そうではありませんでした。

調べた分子や微生物の変化のうち、明確に「年齢とともに一定方向へ直線的に変化したもの」は、わずか6.6%でした。

一方、年齢の段階によって変化する「非線形」の変化は非常に多く、解析対象の81.03%が少なくとも一つの年齢段階で変化を示しました。

つまり、「40歳なら40歳の変化があり、50歳なら50歳の変化がある」という単純なものではありません。

身体の中では、ある時期には比較的穏やかに変化し、ある時期になると、多くの変化が重なって起こる。

そんな複雑な動きをしていたのです。(Nature)

 

4.老化には「波」がある

研究者たちは、さまざまな分子や微生物の変化を年齢ごとに分析しました。

すると、非常に興味深い「波」が見えてきました。

それが、

約44歳前後

そして、

約60歳前後

です。

論文では、約44歳と約60歳付近に、分子や微生物の変化が大きくなる二つの「山」が確認されています。(Nature)

 

これは、

「44歳と60歳は、すべての人に共通する絶対的な老化年齢」

と考えるべきではありません。

108人という比較的小規模な集団を対象とした研究であり、年齢そのものが原因だと証明したわけでもありません。

 

しかし、

「人間の老化には、変化が大きくなる時期が存在する」

という考え方を支持する重要なデータなのです。

 

5.40代半ばでは、何が変化するのか?

40代前後の変化では、

  • 心血管系

  • 脂質代謝

  • アルコール代謝

などに関係する分子の変化が目立ちました。(Nature)

簡単に言えば、

「身体のエネルギーの使い方や、脂質の扱い方などが変化してくる」

ということです。

 

例えば、若い頃と同じ食生活をしているのに、

「以前より太りやすくなった」

「疲れが抜けにくくなった」

「運動不足の影響を感じるようになった」

という経験をする人がいます。

もちろん、それらすべてを「44歳の変化」で説明することはできません。

生活習慣、運動量、睡眠、ストレス、遺伝的要因など、さまざまな要因が関係します。

 

しかし、

「年齢とともに身体のシステムそのものが変化する」

ということを理解するうえで、この研究は重要な視点を与えてくれます。

 

6.60歳前後では、さらに大きな変化が現れる

そして、もう一つの大きな節目が、

60歳前後

です。

この時期には、

  • 免疫調節

  • 炭水化物代謝

  • 腎機能に関係する変化

  • 心血管系に関係する変化

などが目立ちました。

研究では、60歳以上で心血管疾患、腎臓の問題、2型糖尿病などに関係する生物学的変化も確認されています。(Nature)

 

つまり、

40代半ばと60歳前後では、身体の変化の内容にも違いがある

ということです。

これは、

「老化は単なる時間の経過ではない」

ということを示しています。

 

7.ここから見えてくる「老化の本当の姿」

この研究から、私たちは重要なことを学べます。

それは、

老化とは、単純な「時間の経過」ではない

ということです。

 

身体は、

「時計の針が一秒進むたびに、均等に衰える機械」

ではありません。

むしろ、

さまざまな生命システムが相互作用しながら、状態を変えていく複雑な生命体なのです。

 

例えるなら、

「一定の速度で坂道を下っていく」

というより、

「流れの速さを変えながら進む川」

に近いのかもしれません。

穏やかな流れもあります。

流れが速くなる場所もあります。

そして、大きく方向が変わる場所もあります。

これが、

「非線形の老化」

という考え方です。

 

8.では、私たちは「老化」にどう向き合えばよいのか?

ここで重要なのは、

「老化を止める」

という発想だけではありません。

なぜなら、老化は生命そのものの変化だからです。

むしろ大切なのは、

「身体が変化することを前提として、どう健康に生きるか」

です。

 

例えば、

身体を動かす。

食生活を見直す。

睡眠を大切にする。

ストレスを減らす。

人とのつながりを持つ。

そして、

脳を使い続ける。

ここから、今回のテーマは「肉体」から「意識」へと移っていきます。

 

『竜宮城から戻ったクマとサルは、開けてはならないという約束を破って開けてしまい、

中から立ち上った白煙によっておじいさんになってしまう』

B-1.png

 

 

9.肉体が老化すると、意識も老化するのか?

ここで、私たちに一つの問いが生まれます。

「肉体が老いるなら、意識も同じように老いるのだろうか?」

これは非常に深い問題です。

 

もちろん、科学的には、

「意識は老化しない」

と断言することはできません。

脳は身体の一部です。

脳にも加齢による変化が起こります。

記憶力や処理速度などにも変化が起こり得ます。

そして、病気によって認知機能が低下することもあります。

ですから、

「肉体は老いるが、脳は絶対に老いない」

という話ではありません。

 

しかし、

ここには非常に重要なポイントがあります。

それは、

「身体の老化」と「認知機能の老化」は完全に同じではない

ということです。

人によって、その変化の程度には大きな違いがあります。

そして、その違いを考えるうえで重要なのが、

「認知予備能」

という考え方です。

 

10.「認知予備能」という、もう一つの可能性

脳には「認知予備能」という考え方があります。

簡単に言えば、

「脳に変化やダメージが起きても、認知機能を保つための余力」

です。

 

同じように年齢を重ねても、

「比較的頭が柔軟な人」

もいれば、

「新しいことを覚えることが難しくなる人」

もいます。

 

なぜでしょうか?

その背景の一つとして考えられているのが、認知予備能です。

2024年に発表された27研究のメタ解析では、若年期、中年期、後年期の認知予備能が、いずれも認知症リスクの低下と関連していました。 (フロンティアーズ)

さらに2024年のレビューでは、知的に豊かな活動を生涯にわたって続けることが、加齢に伴う認知機能の維持に重要であることが示されています。 (PubMed)

 

つまり、

「脳は年齢とともに変化する。

しかし、その変化の影響の受け方には個人差がある。」

のです。

もちろん、これは本人の努力だけで決まるものではありません。

遺伝、病気、環境、教育、生活習慣など、さまざまな要因があります。

 

しかし研究では、

生涯を通じた知的活動や豊かな経験などが認知予備能と関連し、

認知機能の維持に関係することが示されています。

つまり、

「年齢を重ねれば、すべての人が同じように認知機能を失っていく」

という単純な話ではないのです。

ここに、

「肉体の老化」と「意識の生き方」

を考える重要な入口があります。

 

【前編のまとめ】

今回のNature Agingの研究が教えてくれることを、簡単にまとめると、

 

① 老化は一直線ではない

身体の分子変化の多くは、年齢に対して非線形に変化します。

 

② 老化には「波」がある

特に、

40代半ば

60歳前後

に大きな変化の波が観察されました。

 

③ 身体は複雑なシステムである

遺伝子、タンパク質、代謝、免疫、脂質、微生物などが互いに関係しながら変化しています。

 

④ 老化は「衰えるだけ」ではない

身体が変化する時期だからこそ、自分の生活習慣を見直すことが重要になります。

そして、

ここからさらに重要な問いが生まれます。

「身体は老いていく。」

では、

「私」という存在も、

同じように老いていくのだろうか?

 

肉体は時間とともに変化します。

では、

「自分の考え方」

「好奇心」

「学ぶ力」

「問い続ける力」

「世界を見つめる眼」

まで、年齢とともに衰えなければならないのでしょうか?

 

この問いは、

単なるアンチエイジングの話ではありません。

それは、

「人間とは何なのか?」

という問いにつながっていきます。

そして、この問いこそ、

現在連載中の、

「真実を観る眼力 人類意識の進化~宇宙秩序に学ぶ認識革命~」

へとつながる重要なテーマなのです。